6月18日放映のNHKスペシャル「睡眠負債が危ない・・・ちょっと寝不足が命を縮める」3週間あまりが経過した。これまで10人余りの患者さんにこの番組を観たのかどうかを尋ねてみた。驚いたことに誰も観ていないことに愕然とした。ここにきて「睡眠負債」という言葉がNHKやスマホのニュース欄に取り上げられているが、私は10年以上前から診察時にこの言葉をよく使っていた。診察時に「寝不足が続いているのなら2週間以内に寝不足分を補わないと睡眠負債となっていずれそれが不渡りとなってこころや身体をの健康を害しますよ!」と言っている。「睡眠負債」は通常の単発的な寝不足とは少しニュアンスが違う。慢性的な寝不足が蓄積して知らず知らずの間に心身を蝕んでいく。必要とされる睡眠時間は個人差があって何時間必要とは言いきれないが、一般的には7~8時間と言われている。その人が睡眠が足りているかどうか、朝起床して、陽の光を浴びて体内時計のスイッチをオンしていから4時間後に眠気があるかどうかが寝不足や睡眠負債の有無を判断する一つの目安となる。番組では実験的に2群のマウスのに癌細胞を移植。普通に睡眠をとったマウスと眠らせないで人工的に睡眠負債を負ったマウスとでは癌組織が後者で2.5倍くらいの大きさに増殖していた。さらに睡眠負債を負ったマウスには通常のマウスより、人間のアルツハイマー型認知症の原因物質の言われているアミロイデβ蛋白が有意差をもって多くみられていることが示された。この番組の数週間前の「ためしてガッテン」の番組で放映された「人間が寝ている間にアミロイドβ蛋白が排出される・・・」という内容と合致する。アルツハイマー型認知症はある日突然発症するのではなく、20年や30年やそれ以上の年月をかけてアミロイドβの蓄積により発症する。

その人の睡眠状況はこころの健康のバロメーターであるとよく診療で使う文言である。メンタルの健康度、不健康度をを客観的に推し量る術はない。その人の睡眠状況が精神科治療を行うか否かの分岐点ともいえるくらいに重要な事である。我々が身体科の医師から時に揶揄される一つに「精神科の医者は薬・・・特に睡眠関連の薬を出し過ぎる!」をしばしば耳にする。我々からするとこころ病んでいる人はとにかく寝ささなければ肝心な薬も効かないし、治る病気も治らないと経験的に分かっている。こころ病まないためにも「睡眠負債」を背負わないようにしてもらいたいものだ。